大日本印刷(DNP)の企業研究

この記事では、大日本印刷株式会社(DNP)の企業研究についてまとめます。

(2023年2月時点の情報に基づいています)

10秒でわかる大日本印刷(DNP)のまとめ

出版・DX化支援などの「情報コミュニケーション部門」、包装材などの「生活・産業部門」、電子素材などの「エレクトロニクス部門」のの3領域が、大日本印刷の事業の柱です。

近年の営業利益は「エレクトロニクス部門」が牽引しており、紙の印刷会社というイメージから転換を図りつつあります。

直近の純利益は972億円。従業員一人当たり純利益は266万円(22年3月期)

会社概要

会社名大日本印刷株式会社
URLhttps://www.dnp.co.jp/
本社東京都新宿区市谷加賀町一丁目1番1号
資本金1,144億6,476万円
従業員数単体10,082名
連結36,542名
事業概要出版をはじめとした情報コミュニケーション部門、包装等の生活・産業部門、ディスプレイ関連製品および電子デバイスなどのエレクトロニクス部門などを展開

会社概要の補足

1876年創業、凸版印刷と双璧を為す、日本の印刷業界の2大巨頭の一角です。

印刷技術をユニークネスの起点とし、次の3つの事業領域を展開しています:

  1. 情報コミュニケーション部門
    • 出版・写真プリントの事業のほか、デジタル販促や情報セキュリティなどのDX化支援などのサービスを包括的に展開しています。
  2. 生活・産業部門
    • 食品や飲料、日用品・医薬品の包装のほか、住宅や商業施設などの建装材、医療・介護施設、自動車や鉄道車両の内外装材を展開しています。
  3. エレクトロニクス部門
    • 電子部材やフィルタ、ディスプレイ部品・部材を開発し展開しています。

そのほか、主要な子会社に北海道コカ・コーラボトリングを抱えており、飲料部門も展開しています。

売上規模としては情報コミュニケーション部門や生活産業部門の方が大きいのですが、いずれも営業利益率では3~4%に留まります。

そのため、近年の大日本印刷の営業利益は営業利益率18%~20%のエレクトロニクス部門が牽引しているという状態で、強みの多角化が目に見え始めています。

理念・ビジョン

未来のあたりまえをつくる。

大日本印刷 HP「グループビジョン/ブランドステートメント/行動規範」より

印刷という事業が「人と社会をつないで新しい価値を発揮するものである」という役割であるということに着目したブランドステートメントになっています。

逆に言えば、印刷という技術要素はもちろん大日本印刷の強みでもありルーツでもあるものの、決してそれだけに固執していない、とも見えます。

持続可能なより良い社会、より快適な暮らしの実現に向けて、新しい価値を創造し続けることを会社の志として持っているようですね。

業績と戦略

売上・純利益(株主帰属)の推移

直近の純利益(株主帰属)

972億円

2022年3月期

従業員一人当たり純利益

266万円

2022年3月期
連結従業員数36,542名で除算

営業利益の構成(2022年3月期)

営業利益から全社コスト、法人税等を差し引いたものが概ねの純利益となるため、セグメントごとの業績は公開されている営業利益構成から推し量ることにします。

22年3月期は、情報コミュニケーション部門は、雑誌の印刷が伸び悩むなどの影響はあったものの、写真の撮影・プリント用の部材とサービスの需要が大幅に回復したこともあり、増益となりました。

また、生活・産業部門は住宅、自動車用の内外装材の回復があったものの、原材料高の影響で微減益となっています。

一方で、22年3月期は大日本印刷の強みである「光学フィルム」「有機ELディスプレイ」などをはじめとしたエレクロトニクス部門の成長が目覚ましいです。

巣ごもり消費の拡大やテレワーク・オンライン授業の拡大に伴い、ディスプレイの消費ニーズが上がったこと、世界トップクラスのシェアを誇るスマートフォン用の有機ELディスプレイ需要も堅調に推移したことから、大きな増収増益となったようです。

中期的な戦略の目論見

同社の課題意識として、2つのことを抑えておく必要があります。

まず、世の中が紙メディアからデジタルシフトしつつあるなか、旧来の印刷事業だけでは先細りすることは避けられません。

加えて、地球環境に対する意識も高まっていることを踏まえ、旧来のように環境負荷の高い素材を提供し続けるのはサステナブルではありません。

メガトレンドとして「DX化」「環境負荷低減」に商機を見出しており、大日本印刷は旧来の「紙の印刷会社」というイメージからの転換を図っているように見受けられます。

具体的には、中期計画の注力事業は次の5つと定めています:

  1. デジタルインターフェース関連
    • 光学フィルム(光の通過や反射・吸収などの作用によって、ディスプレイが見やすくなるなどの効果を生み出す素材)やメタルマスク(プリント基板の表面実装時に、基板上にハンダペーストを印刷するために使用される治具)など
  2. 半導体関連
    • フォトマスク(電子部品の回路パターン等を被転写対象に転写する際の原版)・リードフレーム(半導体パッケージの内部配線として使われる薄板の金属)など
  3. モビリティ・産業用高機能材関連
    • 電気自動車に使われる、リチウム電池用バッテリーパウチ等
  4. コンテンツ・XRコミュニケーション関連
    • XR(クロスリアリティ、またはエクステンデッドリアリティ)とは、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)など、現実世界と仮想世界を融合して、新しい体験を作り出す技術のこと
  5. メディカル・ヘルスケア関連

すでにエレクトロニクス部門が大日本印刷の営業利益を牽引していることも踏まえ、1つめから3つめまでは電子素材・半導体部材が中期の柱を占める形になっていますね。

たとえば、電気自動車の利用拡大に伴いリチウム電池の需要も拡大が見込まれますが、リチウム電池の軽量化・安定化などに同社のバッテリー包装技術を生かし開発を進める、などに投資を進めているようです。

また、新規事業と位置付けているXRコミュニケーション関連については、自治体と共創してリアル空間と連動するバーチャル空間のまちづくり、アニメ・マンガなどのコンテンツホルダーと協業した良質なコンテンツ開発、美術品・重要文化財などのアーカイブをXR技術で新たな体験に昇華するなど、様々な分野で事業展開を模索しているようです。

バランスシート(2022年3月時点)

自己資本比率

61.2%

調達資金のうち、純資産、すなわち金融機関等に返す必要のないお金の割合

流動比率

198.2%

1年以内に発生する支払い義務が生じる負債に対して、すぐに現金化できる資金を持っている割合。一般に100%以上が適正、200%以上は安全

総売上回転率

0.72回

売上に対する総資本の割合。多すぎない元手で適切な売上を得られているかを示す。業種に寄るが、一般に1~1.5回以上が効率的な経営の目安

主要な働きかたの指標(2021年度)

入社後3年定着率

92.4%

平均勤続年数

19.1年

有給休暇平均取得

9.9日

月平均残業時間

18.2時間

勤続年数はやや長めと言えそうですね。

新卒採用の動向

直近の採用人数

技術系総合職事務系総合職
2021年度89名73名
2020年度112名81名

コース別の採用を行っているようです。

「事務系総合職」は、営業、企画プランナー、コーポレートスタッフ。

「技術系総合職」は、研究開発や製品・システム開発などの職種です。

近年は技術系総合職の採用人数の方が多くなってきているようです。

2大印刷会社の企業研究

2大印刷会社の凸版印刷、大日本印刷の企業研究は、以下の記事をご確認ください。

  • 凸版印刷 (連結売上1.5兆円、純利益1,232億円*)
  • 大日本印刷 (連結売上1.3兆円、純利益972億円*)

*いずれも22年3月期

また、凸版印刷、大日本印刷の事業の強み・違いの比較については、以下の記事をご確認ください。